半熟者の日記

ポケモンやら

あんたどうせオタクでしょ?アニメの曲歌いなさいよ

「……は?」

それはまさしく、晴天の霹靂であった。

 

※この話がフィクションか否かは、ご想像にお任せします※

 

 

時は数年前。

人類が未知のウイルスに苦しむ事を知らない時代。

マスク無しで飲み会やカラオケを楽しめる時代。

今となっては非常に貴重で遠い過去に思えるような時代の年末。

 

俺は仕事での忘年会に参加していた。

仕事で大きな人間関係のトラブル無く、良い上司に恵まれて、理不尽な思いを過度にする事の無い日常を送っていた。

 

忘年会では勿論飲み食いとなるのだが、そこでの記憶は実はあまり無いのである。

 

俺は酒に弱い。

色んな人にさあさあ飲めやれ飲めとグラスに色んな味のチューハイを注がれては俺の胃の中に蓄えられて、1時間程で出来上がってしまった。美味しかったといえば美味しかったのではあるが……。

普段はお酒を飲まない事を公表しているからか、ここぞとばかりに俺に飲ます上司や先輩が多かった。

机に伏せてる間にも遠くから楽しそうな笑い声で盛り上がっているのが羨ましい限りだ……。

 

ここを出る30分くらい前だろうか、俺は少し気分が回復したのでそっと顔を上げて辺りを見回す。

8割が別の場所で盛り上がり、2割が散り散りな場所で談笑してる。

良し、俺はノーマークだ。水を飲み、再び眠りに着く。いかん、急激に本物の睡魔が……。

 

 

「……!……君!俺君!」

「んん……?」

誰かに身体を軽く揺さぶられる。やはり軽く寝てしまった。

「起きた?もう行くよ、立てる?」

上司に起こされた、どうやらもう店を出るようだ。

「はい、大丈夫です」

眠気は残っているものの、体調は大分良くなっていた。顔の熱さはまだ残っているが、問題は無い。

「みんな容赦なく飲ませ過ぎなんですよ……」

「俺君が普段から飲まないからでしょ〜?」

「それでもペースが早すぎる!」

「ところで、二次会でカラオケ行くけど俺君も行くよね?」

む、カラオケか。断って人間関係に支障が出るのも嫌なので、素直に了承しておく。

メンバーの大半はここでお開きになって大分人が少なくなった。まずいな、1人あたりの歌う曲が多くなってしまう……。

不安に駆られながらカラオケボックスに到着して、席に着く。

「何?大分人数減ったねえ!」

1番の年配のオバさんが酔ったまま吐き捨てるように嘆く。遠くから楽しそうに聞こえた笑い声は大体この人である。

早速他の人が曲を入れる中、オバさんは俺に話しかけて来た。

「てか俺君飲んでた!?」

「みんなに飲まされて早い事ダウンしてました」

「えー、情け無い」

「無茶言わないで下さい」

「そうだ、あんたどうせオタクでしょ?アニメの曲歌いなさいよ」

「……は?」

前の店の酒の勢いが続いてるオバさんの無茶振りに俺は一瞬固まる。

一般人とのカラオケは曲を厳選する必要があるのにも関わらず、このオバさんはよりにもよってアニメの曲で厳選しろと……?

「どうせ気色悪い歌歌ってるんでしょ?」

風評被害と偏見が酷いですねえ、飲み過ぎましたか?」

「うるさい、良いから入れなさいよ」

やれやれ、酒が人を暴くとはよく言ったものだ。

俺は助けを求めるように視線を上司に向けた。

「どうした?アニメの曲歌えば良いじゃん」

畜生、仲の良い上司が味方してくれない!

「俺君普段カラオケ行くの?」

「友達とそれなりには」

「どうせアニメの曲ばっかり歌ってるんでしょ?なら良いでしょ?」

何で困る所を的確に突いて来るかなあこの人!

しかも返答にも困る!

「俺君が普段どんな曲を歌ってるか楽しみだな」

あぁ、仲の良い上司まで煽って来た。困った。

 

…………待てよ?

 

「分かりました。アニメの曲を歌いますが、途中で曲終了させるのは無しですよ?」

「当たり前じゃない」

言質は取った。

後はカラオケの曲を入れるだけだ。

 

「次は俺君の曲か」

 

『ナイスな心意気』

こち亀ED

 

♪ baby do you know me 明日に向かって ナイスな心意気

 

…………

 

「違うでしょ」

「何が違うんですか」

「嵐の曲じゃない」

こち亀のエンディングですよ」

オバさんは言葉に詰まった。

 

※長くなったので続きます、今回はここまで※